top of page
  • 執筆者の写真KANAZAWAyuuki

ぬ「ヌード」


 小学生の時住んでいた家の近くには、ブドウ畑があった。昭和の話だから、街なかにあるブドウ畑とはいえ結構侵入が簡単で。

 「入っちゃいけない」と言われる場所には「入らねばならない」という小学生心理のもと、よく畑を突っ切っていた。いわゆる「斜め横断」のようなことをすることで、ほんの少し友達の家に行くのに近い、というたったそれだけの理由。しかしそんなショートカットが楽しいお年頃。


 畑の真ん中には小さな小屋があった。恐らく畑仕事の道具を入れたり、大人がちょっと休憩したりするスペースだったんだろうと思う。小屋には窓があったし、そんな立派な造りではなかったから、中の様子がよく見えた。

 おじさんたちがいる時には、だいたい見つからないようにダッシュするのだが、ある時、つい二度見して立ち止まってしまったことがある。

 目に入ったのは、女性のヌード写真。

 小屋の壁に堂々と貼られたそれは、美しいぶどうの蔓に囲まれて異彩を放ち、それでいておじさんたちをうっとりとした目で見つめていた。

 いや、実際は逆だったのだろうけど、いわゆるポスターの女性のヌードは、小学生には強烈で。これが男子小学生であれば、期待を裏切らない阿呆満載の騒ぎ方をするのだろうけど、思春期でもあった(多分)わたしは、そこを通るのがすっかり恥ずかしくなってしまったのだ。女子だからね、一応ね。



 「ヌード」と言えばそんな思い出がよみがえるのだが、時代は令和となり札幌へ。なんと「ヌード」を描く女性に出会った。まあ、わたしがそんな言い方をすると変態ぽいが、もちろんれっきとした「芸術」である。

 

 その女性ご本人は、決して派手ではなく、そして地味でもなく、独特の美しさをもつ人だった。着物教室で一緒になり、薄いピンク色でサクラ柄の小紋を持参していた。聞くと、日本画家だという。ひいい、そんな高尚な芸術家に出会ったことのなかったわたしはビビった。ごめん、年下だし教室だからこそ気さくに話しかけてしまった。

 着付けの先生が「画廊でお客様を着物でお迎え出来たらいいなって、習いに来てくれたの」ほほう、それは素敵だ。なんか自分とレベルの違いを感じ、やや卑屈になる。

 とはいえ、SNSで彼女とつながり、改めて帰宅後に投稿を見ると。

 美人画のヌードだったわけで。

 なんとまあ美しい。少女ぽさも残した色気をもった女性のヌード。まさに美少女。こんなに官能的な日本画を生み出すのが、昨日の彼女とは!おっさんなら大興奮するところだ。いや、正直に言おう。わたしは大興奮した。


 彼女は全国的にも展示会をしていたが、グループ展も多く、美人画を描く女性たちの1人としての展示会も多い。ずらりと並んだ美人画を見ても、贔屓目かもしれんが彼女の描く女性が、一番美しいと思う。豊満な乳でもないのが共感を得て非常に良い(個人の感想です)。

 すっかりただのファンである。機会があったら、彼女の作品をぜひ見てみて欲しい。

bottom of page