top of page
  • 執筆者の写真KANAZAWAyuuki

ふ「双子」


 中学時代の同級生に、やや顔が濃いめの男子がいた。違うクラスだったし、話したこともないし、特に興味もなかった。しかし、一度見たら忘れにくい顔立ちだったので「あ、同級生だな」くらいには認識していた。知っていたのは苗字くらいか。仮に鈴木くんとしよう。

 ある日の休憩時間に、体育館で遊んでいた時のことだ。何人かのクラスメイトとバレーボールをしていた。円になってわいわいボールを適当に分かち合う感じの、「キャッチボール的団体競技」みたいな。はっきり言って、バレーボールは腕が痛いので好きではなかったが、まもなくバレーボール大会を控えていたので、みんなで練習していたことを覚えている。

 そんな体育館の中に、その鈴木くんもいた。もちろん一緒にバレーボールはしていないが、隣のスペースで男子同士何かしていたように思う。そして予鈴(授業開始5分前のベル)が鳴ったので、わたしたちは教室へと戻った。友達と無駄なおしゃべりをしながら、廊下を歩いていたところで、他のクラスの前を通ったその時、なんと先ほどの彼がいたのだ。

我が目を疑う、というのはまさにこのこと。何度も何度も彼の顔を見直した。ついさっき、体育館にいて、わたしの方が先に出てきて、まだフロアで遊んでいるはずの彼を、わたしは見たのだ。

 「どうしたの?」と隣にいた友人がわたしに声をかける。「いや…なんか変なもの見たかも…」と言葉を濁すと、友人はどうしたどうした?とますます追及。仕方ないので「鈴木くん、さっき体育館にいたのに、もうこんなところにいる。気持ち悪いんだが。目の錯覚なのか?それともドッペルゲンガーか?!」興奮する自分をよそに、友人はあっさり言った。

 「は?双子でしょ」


 その一言で全てを悟った。あーーー、へーーーー。この驚きの感情は、どこに持っていけばいいんでしょうかねこれね。双子かぁ…へえ…。友人曰く「学校内ではそれなりにイケメンの双子で有名」とのこと。知らない方が珍しいと言われ、自分の情報収集のレベルの低さに愕然とする。

 タイトルが「双子」だけに、このオチを想像した方も多いと思うが、それを知らずに彼らを見てしまったわたしの動揺は、わかって欲しい。


 大人になってからは「あなたは双子ですか?」なども聞かないし、双子であってもそれなりに社会生活の環境が違うから、特に支障はないと思う。しかし、札幌に来てから小さな失敗をしてしまった。

 札幌には、普通に友人というよりは、もともと仕事絡みから仲良くなるというパターンが多い。だから仲良くなっても仕事で会うため、やや距離間あるのも否めない。そんな中の一人に、地下鉄の駅でたまたま会ったのだ。移住してきてまもない自分が、知り合いに会えたことが嬉しくて、喜んで声をかけた。

 しかし、「良子さん!」(もちろん仮名)と呼んだわたしに、彼女はつらっと「あ、違います」とおっしゃった。「え?〇◇の仕事でご一緒させてもらった金澤ですう」とにじり寄ると、やや迷惑気に「いや、違いますからすみません」とおっしゃる。

 もうここまで来たら、札幌での話のオチも想像つくと思われるが。

 そう、彼女たちは双子だったのだ。やだもう最初に教えてくれよう!とは思うが、まあそういってもね…。あとから本人に聞くと、間違って声をかけられることは、やはりよくある話らしい。そういう時はお互いに、変に「双子なんです」というよりは、単純に「違います」といった方が早いとしているそう。あまりにもわたしがしつこいので「双子です。良子は姉です」とまで答えてくれたのであろう、妹の彼女に今は心から謝りたい。

 すまん。

bottom of page